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【法話】幸福なんていらない①

あなたは悟りたいですか?

 

突然、誰かに「あなたは悟りたいですか?」って尋ねられたらどうします?

普通は警戒しますよね。怪しい団体に勧誘されそうって。

 

普段の生活の中で、悟ることなんて頭の片隅にもないでしょう。

もし友達と飲んでいて将来の夢でも語り合っている時に、「オレさ、いつか悟りたいんだよ」

なんていったら、間違いなく次の飲み会に誘われなくなります。

会社の入社面接で「御社で働かせていただければ、必ずや仏になってみせます!」

なんていったらどこも門前払いです。

 

お坊さんの場合はどうかというと、

私個人に限って言えば、本来なら悟りを得るために日々修行を積んでいないといけない立場ですが、

毎日の生活に追われると、なかなか悟るなんてことは現実的に考えられません。

 

でも時代が少し変わってきたのでしょうか?

 

ここ最近、世間一般で「悟り」「気づき」「覚醒」といった言葉を目や耳にするようになりました。

本屋にも必ずといっていいほど精神世界のコーナーがあって、

そこには悟るための実践マニュアルみたいな本や、実際に悟りを得た人の体験を綴った本などが並んでいます。

もちろん怪しげなものもありますが、中には内容の深いものもあって、

手にとってパラパラと読んでみると「なるほど」と感心することもあります。

 

お寺で開いている坐禅会でも、ちょっと前なら、

「足が痛くならない方法は?」「坐禅中にクシャミがしたくなったらどうしうたらいいでしょう?」

みたいな質問が多かったですが、最近では、悟りに関する質問がとても増えました。

また、悟り体験をした人のレクチャーやセミナーも大きな会場が満員になるぐらい人が集まることもあるようです。

こういう状況をみると、ちょっとした「悟り」ブームかな、なんて思うことがあります。

 

その背景には、物質的な豊かさだけでは満たされず、

精神的な幸福感を真剣に求める人が多くなってきたことがあると思います。

その中で悟りという体験が注目されはじめたのでしょう。

苦あり楽あり山あり谷ありの不安定な人生も、悟りさえすれば完全な幸福を手に入れることができるはずだ、

というわけです。

 

いままでは仏教のいわゆる「専売特許」だった悟りが巷にどんどん広まっているようで、

こんなふうに悟りが身近になったのはいいけれども、悟っていないお坊さん代表の私としては、

なんだか置いてきぼりにされたような寂しい気持ちとともに忸怩たる思いがします。

 

幸福は地獄の入口?

 

で、でもですね、負け惜しみのように聞こえるかもしれませんが(実際そうかも)、

悟りの境地って一体どんな世界なんでしょう。

一切の悩みも苦しみもないすべてが思い通りの完全に幸福な世界というイメージを持つかもしれませんが、

そんなお花畑みたいな世界って本当に存在するのかなって思うんです。

 

こんな笑い話があります。

一人の死んだ男が生まれ変わり、すべてのものが美しく快楽に包まれた世界に行ったそうです。

そこではどんな願い事も瞬時にかなえてくれます。

男は喜び、夢のような日々を過ごしました。

ところがある日、すべてが自分の思い通りになる暮らしにすっかり飽きてしまいました。

そこで、その国の番人に、「何か自分の思い通りにならないことはできないか」と尋ねました。

番人は、「その願いだけはかなえられません」と答えました。

男は絶望したように「それではまるで地獄みたいじゃないか」と叫びました。

すると番人は「あなたはどこにいると思っているのですか?ここが地獄ですよ」と言いました。

 

私たちは自分のままなる理想の人生を追い求めるのに必死ですが、

その実、地獄に向っているのかもしれません。
結局のところ私たちは何が幸福なのかはっきり分からないまま生きています。

電車に乗るのに目的地も分からず乗ることはありませんよね。

でも、たった一回しかない大切な人生に関しては、皮肉なことにその目的地もわからず、

いつか本当の幸せが手に入る、いつか理想の自分になれるはずと思ってずっと走り続けているのです。

 

つづく

 

 

【『天台ブックレット』第81号掲載】

【不許無断転載】

 

 

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